アメリカ・インディア大学で実験考古学を専攻するニック・トス教授によれば、出土した石器を調べることでつくった人の利き腕がわかるという。
右利きの人は、右手をハンマーのように使うため、石器の右上から左下にかけて加工のあとができるのである。
さて、トス教授が、そうやってホモ・ハビリスたちの利き腕を調べたところ、右利きと左利きの比率がは57対43であることがわかった。
現代人では90パーセントが右利きであること、さらにチンパンジーでは右利きと左利きの割合がちょうど半々であることを考えると、どうやらホモ・ハビリスの時代には、すでに「右利き有利」が確立し始めていた、ということになるが、この事実は、脳の発達を研究する学者に非常に大きなヒントを与えることになった。
右利きの人間は、現代人がそうであるように左脳が発達している。
ホモ・ハビリスの時代から除々に右利きの人が増えていったということは、人類全体が、除々に左脳を発達させていった推測できる。
左脳は、言語や論理をつかさどっている。つまり、人は「右利き優位」になることで、飛躍的に言語能力や論理的思考を発達させいていったのではないか、というわけである。
たしかに、近代まで、人間はその論理的思考によってさまざまな文明を生み出してきた。その意味では、昔の人が除々に「右利き優位」を確立していったことに感謝しなければならないのかもしれないが最近は事情が違ってきているのではないか。
現代は論理(左脳)より感性(右脳)が重視される時代といわれる。つまり、おそまきながら「左利き優位」の時代がやってきたともといえるだろうか。
昔から左利きには天才が多いといわれるが、さて、現在の『閉塞感』とやらを打破するためには、左利きの人に期待するしかない?
カッパブック『脳の話』より