体験が人をつくる。体験が人を育てるといわれる。昭和14年、雑草の原っぱに僅か五坪のバラックを建てた。そして土間に菰を敷いて作品を作ったが作品は秋の文選に落選した。この時のことを
『自分でも落ちるとは思わないし、友人たちも入選を保証していたものだけに、これは大きな打撃だった。自分の手でつかんだもの以外は信じてはならないこと、自分の力以外には何ものも頼れるものはないということがはっきりとわかった。この1回だけが私の生涯の落選の経験となり、骨の髄までしみ込んだのである』
と書いている。昭和15年、土間にリンゴ箱を伏せて置き、その上に回転台をのせて、前年に見てきた中宮寺の弥勒を心に念じながら『野』という作品をつくった。